3日前、急に某著名関西圏の大学の卒業スピーチ依頼が来たので、引き受けてしまった。
担当者曰く、Yottube40万人くらい登録者の投資系インフルエンサーに依頼したところ、「お金をもっとむしり取りたいです！」という趣旨のことを言い始めキャンセルになり。業務多忙のため、スピーチ依頼を後回しにしていたら、卒業式3日前になっていたとのこと。
直属の上司に「誰でもいいから！Googleで検索した適当な番号にかけて、最初に電話出たやつに依頼しろ！今やれ！」と言われたらしく、私に依頼がきた。
私は徳島県のチェーンカフェで、皿を毎日割るので、草むしりと電話担当になったアルバイトなんだけど、大丈夫だろうか。でも30万くれるらしいので、承諾した。
原稿は自分で書いて、服装とかも適当で〜とのことだったけど、何を言っていいか分からないし、めんどくさすぎて放置していたら今日です。何も書いてない。
巨大なモニターに、私の衝撃的な登場を煽る言葉が映し出されている。
「ついに、あの人が」
「経歴不明」
「適当に電話かけたら、繋がった人です」
「なんとか、なる」
会場がざわめいている。明らかに不安げな方に。
「どうぞ皆様、盛大な拍手でお迎えください！」と司会の方が煌めいた声で促してるが、三人くらいしか拍手してない。
「こんにちは。日本のどこかで草むしりしてる人間です。」と言った。土地や職業や名前で、人を判断するなよというメタファーを込めて。でも「メタファーです」とは言わなかった、ダサいから。
「てめえ、誰だよ！」という暴言が飛んできている。こっちも同じ気持ちだった。私は30万もらえるから来たのだ。てめえら、みんな誰だよという気持ちだった。
「朝ごはんはバナナです」「好きな作家は川上弘美です」「映画は、トランスフォーマーが好きかも」と言葉を紡いでいた。
「お前の生活、聞いてねえよ！帰れよ！」
「担当者出てこいよ！労働しろ！！」
「私の4年間返せよ！お前の4年間よこせ！」
会場が罵声に包まれている。帰りたい。ステージに鼻をかんだティッシュや、財布に入ってる謎のレシート等が投げつけられ始める。
私はレシートの中身を見て、「へーこんな店あるんだ。え？今日レッドブル買ってんの？」とか思ってた。
怒号と悲鳴と椅子を叩きつける轟音が響き始めた。欅坂46の「不協和音」を思い出していた。誰かが投げたマルボロメンソールの火種がカーテンに着火し、カーテンが燃え上がってる。きれいだ。火災報知器が鳴り始め、なぜかパトカーのサイレンの音が近づいてきている。1人だけ泣いているボブカットの女の子を見つけた。私のメタファーが伝わったのかもしれない。
その子は、川上弘美を読んでるんだろうか。話したいな。
そさくさと会場を脱走して、今日やってる古本市に行くことにした。30万全部使って、帰ろうと思う。伊藤万理華 17th個人PVフルバージョン『伊藤まりかっと。』を聞いていたら、スキップしていた。泣いてたあの子に、川上弘美の古本を一冊をあげよう。
歌が得意じゃないのに、
「アイドルになってしまいまして…」
不安定だって言われる歌声
それも味! 本気(マジ)!? 味 鯵
うまいだろ!
